また新しい4年が始まる(前編)

 延長後半に決勝点を決めたイニエスタを最後にマークしていた(というか「かわされた」)のは、ファンデルファールトでした。その前のトーレスのふわっと浮いたクロスボールを、中途半端なクリアで結局セスクに渡してしまったのも彼です。


 ファンデルファールトスナイデルと同様に決定的なパスが出せる選手で、ロッベン、ファンベルシーとともにピッチに送り出すべきだ、という声がオランダ国内では多かったという話を聞きました。しかし監督はそうはしなかった。
 ファンデルファールトは、エリア、フンテラールらと同様、強力な交代要因の一人でした。現実を見据えた采配で決勝まで勝ち上がってきた監督が、この試合で選んだ戦い方は、スペイン自慢のパスまわしを反則覚悟の「肉弾戦」によって阻止するというものでした。
 象徴的だったのは前半、オランダMFデヨングの、シャビアロンソの胸をキックしたプレー。最悪のプレーでしたが、審判はゲームを壊すことを避けたのか、退場にはしませんでした。このあとゲームはしばらく荒れることになります。恐らくこの展開はオランダペースだったのだと思います。


 後半63分、スナイデルからのボールを受けたロッベンの高速ドリブルからのシュートを、スペインGKカシージャスは倒れた体と反対側に飛んだボールを足で弾きました。
 距離の長いグラウンダーのパスで、横幅をいっぱいに使いながら組み立てていくというのが、私の考えるオランダサッカーの魅力なのですが、この試合では相手の中盤を壊してボールを奪うと、アバウトなロングボールという形。しかし最前線には超速のロッベンがいるわけで、それはそれで勝利をもぎとる体裁は整っているわけです。「美しさ」を求めるオランダサッカーを捨ててでも初優勝を獲る。執念のようなものを感じさせたこの日のオランダでした。そんな思惑を打ち砕いたスペインのキャプテンの神懸かり的なセーブでした。


 なかなかペースがつかめないスペインでしたが、後半、ペドロに変わってナバスが左サイドに入ると、そこから崩す形がではじめます。更に87分にセスクが入ると、シャビとの縦のポジションチェンジで、バイタルエリア付近でのチャンスが生まれます。

 オランダは延長前半デヨングに変わってファンデルファールトを投入。相手の攻撃をつぶすことに長けたに守備的MFに替え、中盤の展開力を上げようという意図でしょうか。スペインと真っ向勝負に出たかに見えました。
 しかし、延長後半にセンターバックハイティンハが2枚目のイエローで退場となってしまいます。イニエスタのゴールの場面で、CBの位置で対応しなければならなかったのは、ファンデルファールトだったのです。守備が得意とは言えない、ファンデルファールトの裏をイニエスタは見透かしたようにとります。
 ここが、この決勝戦の勝負の分かれ目だったのではないでしょうか。


 パスまわしがクローズアップされるスペインですが、私が最も目を奪われたのは、守備意識の高さです。
 ボールを奪われた際の切り替えスピードは、日本の小学生でも言われていることですが、スペインは、パスを展開しながら、奪われた場合を想定して後ろの選手がポジショニングしているようでした。パスカット直後に再びパスカットし、またボールをまわし始める。相手の消耗の度合いは増していきます。
 トーレスの不調もあって、決定力という面でいささか物足りない今回のスペインでしたが、ジャブを繰り出すように相手の体力を奪っておいて、ゲーム終盤で試合を決める勝負強さは、欧州選手権の頃を上回っていたかもしれません。その後ろ盾はパスまわしとセットの守備力だったと思います。