儀式

藤沢清流 1-1 日大藤沢 (PK 7-8)


次に進むための、たった一枚の切符。
一度は手にしかけたその切符は、日藤イレブンの手に収まりました。




前半を0-0で終え、迎えた後半のなかごろ。日藤がコーナーキックから先制しました。
後半の終了間際、ゴール前の応戦からヘディングシュートがゴールに吸い込まれそうになった所を、日藤ボランチが手で防ぐ格好となり、PKを獲得。これを、慎重に決めて同点。退場で一人少なくなった日藤に猛攻をしかけるも、追加点ならず。延長に入っても両者譲らず、PK戦に突入。5人ずつ蹴って4-4でサドンデスに。9人目で決着がつきました。

藤沢清流の高校選手権は終わりました。

最後のキッカーは、PKが苦手でした。相手は10人なので、PK戦はその人数に合わせます。だから、自分が蹴らないという選択もありました。でも、彼は「やります」と決断したそうです。
力を押さえたボールを真ん中へ。彼が練習から導きだした答えはそれでした。
グランド狭しと動き回り、決して大きくはない体を相手にぶつけてボールを奪い、前線にクロスやスルーパスを何度も入れる。その右足のインサイドから放たれたボールは、右に飛んだ相手キーパーの体に当たり、大きく上に弾かれました。

頭を抱える彼の前を、喜びを爆発させた日藤の選手達が観客席に向かって走り抜けて行きます。


PK戦は残酷です。でも、清流もそのPK戦を3試合も勝ち抜いて、春には神奈川を制したのです。その厳しい戦いの中で彼らは逞しくなっていきました。






バックスタンド一杯の観衆が静まり、固唾を飲んで見守る中、センターサークルからスポットに向かうキッカー。それをゴールの中で待ち構えるキーパー。両者の様々な思いが、一瞬の戦いに向かって研ぎすまされて行きます。


それぞれの流儀で、ボールをセットする様は、まるで何かの儀式のようです。







チームメイトや、友達や、家族が祈る中で、胸の鼓動を必死に押さえながら、孤独にその瞬間に挑む姿は、そう、少年から大人になるための儀式のようにも映ります。


だから、敗れても…



彼らは立派でした。